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この春、週末に行きたい美術館

企画展がなくても足を運ぶ価値あり!

子どもと一緒に楽しめるおとなの美術館

 和泉市久保惣記念美術館では、ちょっと興味深い試みがなされています。

 和泉市には21の小学校がありますが、毎年九月頃から、小学校六年生の社会見学の一環として、子どもたちに美術館で作品を鑑賞してもらうという事業が市と連携して行われています。それだけであればわりとよくある話ですが、ここがユニークなのは、子どもたちが作品を見た感想をとりまとめ、館内に“随時展示”している点です。

 その感想がとても刺激的なのです。子どもの感想だからといって侮ることはできません。子どもたちはけっこう鋭い眼を持っています。じっくり見ないとなかなか気づかないことをしっかり見出していたり、大人では持ちえないであろう感性で作品を捉えていたりなど、ハッとさせられるものがあります。

 また、彼らは作品に関する知識はあまり持っていませんから、かえって先入観なしに自分の素直な眼で作品を見ています。私たち大人は(とくに知識があればあるほど)ある種の先入観を持って作品を見ていることが多いのではないでしょうか。作品が知識通りのものか、ただ確認しているような見方に止まっている場合もあるかもしれません(そういう見方は「確認鑑賞」といわれることがあります)。しかし、子どもたちの瑞々しいまなざしは確認鑑賞とは無縁です。

 さらに、子どもたちの感想は「ハガキで家族に伝える」という趣向で書かれています。子どもたちは自分の抱いた印象や考えを誰かに伝えようと一生懸命書いています。この「他者に伝える」という作業によって、子どもたちはより深く自分の感想を掘り下げるのです。彼らは大人の常識的な見方を軽々と乗り越え、ブレイクスルーします。子どもたちの感想は美術館の職員にもコピーが回覧され、すべての感想に目を通すようにされています。

 子どもたちの感想は、きっと私たちの凝り固まった見方をほぐし、リセットしてくれます。あるいは、単純に彼らの書いていることを楽しむということでもよいと思います。ぜひ一度子どもたちの眼に触れに行ってみてください。

 
和泉市久保惣記念美術館
大阪府和泉市内田町3-6-12
☎0725-54-0001
開館時間/10:00〜17:00(入館は閉館30分前まで)
休館日/月曜日(祝日は開館、翌平日休館)、展示替え期間、年末年始
料金/常設展 一般500円、髙・大生300円、中学生以下無料、65歳以上400円 特別陳列 一般600円、髙・大生400円、中学生以下無料、65歳以上480円 特別展は内容により異なる
アクセス/電車: 泉北高速鉄道和泉中央駅から南海バス「美術館前」下車(約10分)

日本人なら知っておきたい漆芸専門の美術館 

 輪島塗で知られる石川県輪島市にある美術館らしく漆芸に特化した美術館です。
 館内には古今の漆芸家による名品の数々が展示されているだけでなく、輪島塗の製作工程についてもわかりやすい説明があります。それを見ていくと、驚嘆すべき技術がよくわかります。漆芸とひと口にいっても、蒔絵や沈金といった技法があり、表現との関係が理解できます。

 ところで、上等な漆器を見分けるのにどんな方法があるかご存じでしょうか。一つには手で触る方法があります。漆器を包み込むように手にしたとき、しっとりと手に吸い付く感触の品が上等とされます。当館では触ることのできる作品も展示されています。実際に自分の手に取って、優れた漆器とはどんな感触なのかを学べます。

 漆は英語で「japan」です。日本人なら触れておきたい世界ではないでしょうか。

 
石川県輪島漆芸美術館
石川県輪島市水守町四十苅11
☎0768-22-9788
開館時間/9:00〜17:00(入館は閉館30分前まで)
休館日/展示替え期間、年末
料金/一般620円、高・大生310円、小中学生150円
アクセス/飛行機:のと里山空港より車約20分 電車:JR金沢駅から輪島特急バスで約120分、「輪島駅前」より徒歩約15分 車:能登空港I.Cより約20分

名古屋の中心で近代フランス美術を愉しむ

 ヤマザキマザック美術館は、近代フランス美術を専門的に扱うミュージアムです。ロココから新古典主義、ロマン主義、印象派、そしてエコール・ド・パリへといたる、一八世紀から二〇世紀にかけてのフランスの芸術に焦点が当てられています。

 ブーシェの《アウロラとケファロス》はロココの大作です。曙の女神アウロラが人間の男ケファロスに恋をした場面が描かれています。人物は官能を帯びた軽やかな表現になっています。グルーズは少女をよくモチーフにしました。《少女の頭部像》もそんな一枚で、右手を頬に当て、うっとりした表情の少女が描かれています。ここに描かれているのは恋を知った乙女の戸惑いでしょうか、それとも少し違ったものが秘められているのでしょうか。

 館内は設えにも工夫が凝らされています。ギャラリーは作品の時代を思わせる優美なつくりになっており、ゆったりとした心持ちで作品と向き合えるよう演出されています。また、ここでは額装にガラス板はありません。絵の生のマチエールを確かめられるようになっているのです。勇気のいる展示だと思います。ガレの家具のコレクションも必見です。

 
ヤマザキマザック美術館
愛知県名古屋市東区葵1-19-30
☎052-937-3737
開館時間/10:00〜17:30(入館は閉館30分前まで)土日祝は〜17:00
休館日/月曜日(祝日は開館、翌平日休館)、展示替え期間、年末年始
料金/常設展 一般1000円、18歳未満500円、小学生未満無料 企画展は内容により異なる
アクセス/電車:JR名古屋駅より徒歩約6分、市営地下鉄東山線新栄町駅(1番出口)直結 車:名古屋高速「東新町出口」から約5分

『企画展がなくても楽しめる美術館』より構成】 

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藤田 令伊

ふじた れい

1962年、奈良県生まれ。アート鑑賞ナビゲーター、大正大学文学部非常勤講師。企画集団プラスリラックス共同代表。鑑賞者の立ち位置を大事にしながらアートの愉しみを広げる活動に尽力している。独自の視点によるアート情報サイト「ARTRAY」主宰。著書に『現代アート、超入門!』『フェルメール 静けさの謎を解く』『アート鑑賞、超入門!7つの視点』(すべて集英社新書)、『芸術がわからなくても美術館がすごく楽しくなる本』(秀和システム)がある。


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  • 2016.08.09